科学者どうしの訴訟
ちょいと堅い話で長くなりますので,興味の無い方は飛ばして下さい.
実は,注目している裁判がひとつあります.
疑似科学・未科学のエントリで私が参考にさせて頂いていると書いた化学物質リスク管理研究センター長,中西準子先生が京都大学の松井三郎教授(環境ホルモンの権威)に名誉毀損で訴えられたのです.
どちらも著名な科学者であり注目を集めていると思います.
が,どうもこの訴訟ウラがありそうなのです.
そもそもの経緯は中西先生が座長を務めたリスクコミュニケーションに関する国際シンポジウムに松井先生もパネラーとして参加され,発表もされたのだけど,その発表がテーマにそぐわないもので,そのことについて中西先生が自分のウェブサイトで批判的に意見を述べたところが訴訟を起こされたというもの.
公開されたシンポジウムでの発表についてWEB上で意見を述べる事が名誉毀損になるものか?なんでいきなり訴訟なのか?学問のことは法廷じゃなく学会で議論したら?と疑問だらけの訴訟なのです.
この訴訟に疑問を持たれた方は多いようで,ぐぐってみる(by Google)と多くのサイトで話題になっています.
(そのほとんどは中西先生を支持するもので松井先生サイドの情報は探したのですが見ることが出来ませんでした.)
「WEB上で何かに批判的な意見を述べたからといって,それで訴えられていたんじゃたまらない,中西先生には勝ってもらわないと困る.」
と,環境ホルモン濫訴事件:中西応援団が立ち上がりました.
経緯はそちらに詳しく掲載されています.
バックグラウンドとして,中西先生は人に対するいわゆる「環境ホルモン」(和製造語,正しくは外因性内分泌攪乱化学物質 by Wikipedia)問題は終わったとする立場をWEBでも公表されており,私もシロウトながら得られる情報を総合するとその通りだと思っています.
1998年ごろからのマスコミの論調は環境ホルモンが諸悪の根源のような勢いでしたが,検証の結果,結局,人や哺乳動物に対する明らかな作用は認められなかったわけです.
中西先生の研究はリスクを定量化して管理することであり,「環境ホルモン」の重要性は極めて小さいとする立場です.
一方,松井先生は学会(環境ホルモン学会:通称)や市民団体(ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議)をリードする立場で,リスクが小さいといって軽んじらては活動上困るわけです.
京大教授,学会,市民団体,いずれも一般的イメージは立派なところ,錦の御旗という感があり,そこに訴えられるというのはイメージダウンと取られるかもしれません.
また,訴訟に突入すると労力が取られ,本来の研究にブレーキがかかるでしょう.
名誉回復を訴えるというよりも,こうしたことを狙った訴訟の濫用ではないか?という見方も出来るわけです.
松井先生の弁護団を見ると市民団体側と同列であることが明らかで,益々そんな見方に信憑性が増して来ます.
シンポジウムでのテーマ外れの発表も公の場で「環境ホルモンの次はナノ」という自分および学会・団体のPRをしようとしただけなのでは?とも思えて来るのです.
この裁判の行方は見守りたいと思っています.
尚,中西先生は9月29日付で反訴されました.
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コメント
は~い先生、質問。
全部読んで、人それぞれでいいんですが次のことが疑問です。
・・・・中西先生の研究はリスクを定量化して管理することであり,「環境ホルモン」の重要性は極めて小さいとする立場です.
環境ホルモン云々はともかく、この表現が分かりません。
リスクを定量化して管理するってなんですか?
予測可能なリスクってことですか。
環境ホルモンの影響はきわめて小さいから、万が一の被害を数値で表して予測して置くってこと?
投稿: すぎやま | 2005年10月 5日 (水) 23時11分
http://eco.goo.ne.jp/business/csr/navi/011114_01.html
のあたりが参考になるでしょうか.
詳しくは,この本がいいらしい.↓
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4535584095/250-5499830-6459422
エンドポイントを決めてリスクを数値化して評価するってことになります.
一般的にリスクに遭遇する頻度とか,リスクをどこまで受け入れたらどういう利益があるかとか,対策をするときのコスト対効果とか.
もちろん,政策やら研究費やら予算の配分を考えるときにどうするかって話で,個別のリスク(うちの事務所の屋根裏にアスベストが?みたいな)の話じゃありません.
以前私は,○○問題市民団体のようなところは市民を代表するバランスの良い考えを持っているところ,正義の代表かなと思っていましたが,「リスクはあるより無い方がいい」というゼロリスクの二元論だったりするようで,それは違うかと.
投稿: Yamada | 2005年10月 6日 (木) 12時10分
・・・・・リスクがない事象ってないでしょうね。
いろんなTPOに照らしあわせてあてはめて見るしかないんじゃないかと。
まあ、バランス感覚ですね。
投稿: すぎやま | 2005年10月 6日 (木) 19時48分
メールや掲示板が流行る時代です
ほめる分には問題が無いようですが
批判すると、それ以上の反応が起こるようです
面と向かっての話と異なるので
要注意なのですかねぇ
投稿: sky | 2005年10月 7日 (金) 07時07分
いろいろ意見が出るべきだし,出ても,おかしなものは淘汰されていくし信用も得られないのがネットだと思いますがね.
WEB上で議論する素養といいますかそういったものに欠けるお方がたまにおられる.
PC-VANやNIFTY-SERVEあたりからやってきた人たちはある程度もまれて「空気が読める」と思うのですが.
投稿: Yamada | 2005年10月 7日 (金) 12時15分