クールビズのあとは
「ウォームビズ」だそうで,また「遠赤外線下着」のようなあやしげな商品が広まるのでは?と,(その温かさっぽさに反して)悪寒が.
遠赤外線も世の誤解が多い用語だと思います.
エネルギーを外から加えられておらず,熱的に平衡あるいは低い温度の物質が周りに対して遠赤外線を放射することはありません.
断熱された箱の中に温度の違う物質を二つ置くと
時間が経つごとに,「対流,熱伝導,輻射」の三つが働いて両者および周りの容器の壁は最終的に同じ温度に落ち着きます.これが熱的平衡です.
遠赤外線は「輻射」の担い手です.
遠赤外線はあくまでも温度の高い側から低い側に対して放射されますが,どんな物質でもその逆はありません.
エントロピーがどうのと持ち出さなくても,高校の理科程度の知識で「遠赤外線下着,なんかおかしい」と思えるのではないでしょうか?
保温性能がいい商品ということなのでしょうが,遠赤外線は違うでしょう.
私が遠赤外線について考えるようになったのは会社に持ち込まれた商品がきっかけ.
道路融雪(電気式ロードヒーティング)で舗装に「遠赤外線素子」なるものを混ぜると効率がアップしヒーターの電気容量を25%減らせる,というもの.
一般に道路融雪では「対流,熱伝導,輻射」のうち「熱伝導」だけで設計・計算されます.
実際に25%減らしたという計算書を見せてもらうと中身は普通に熱伝導だけの計算で,最後の最後に省エネ係数なるものを乗じています.
当然,ではその係数の根拠は?という事になりますが,「過去の実験の結果から」という事でした.
前回申し上げた「科学的方法」から言えば,特定の実験者が特定の実験施設で得た結果があるとしても,理論で裏付けされ,他者が別の実験で追証・再現出来るようなものでなければ正しいだろうとは言えません.
省エネ係数はいかにも唐突すぎます.
それに,道路融雪ではほとんどが熱伝導の作用であり,輻射の効率アップで25%も改善する余地があるとは思えません.
アスファルトなどの舗装材料の遠赤外線輻射効率は94%ほどでもともと悪くないらしく,「遠赤外線素子」の輻射効率がいくら高くても(96~98%らしいですが)その(4~5%の)輻射効率の「差」が25%の省エネになるでしょうか?
私はならないと思います.
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コメント
融雪ロードヒーティングの話が出たついでに、全然理論的でない笑い話のようなものをひとつ。
うちのロードヒーティングはお湯(正確には不凍液)をパイプで循環させてコンクリートの中をくねらせてあるが、雪が降って溶かし始めるとき、パイプのくねった形が地上の雪に現れて気持ち悪い。
時間が経つと全部溶けるのではあるが。
これって、伝道速度差?。
品位がさがりますね。失礼しました。
投稿: すぎやま | 2005年9月29日 (木) 23時47分
>これって、伝道速度差?
温度勾配ってやつでしょうか,冷えきったところがあったまってくるとその先へ,とだんだん勾配が緩やかになってくるという感じ.
投稿: Yamada | 2005年9月30日 (金) 00時56分